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最近の書評・紹介記事
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大野斉子『シャネルNo.5の謎』

週刊文春  2015年3月19日 文春図書館

 「世界で最も有名な香水」を「生み出したロシア人調香師エルネスト・ボーが、戦争中、粗暴で冷酷な軍人だったことは、人間の複雑さを目の当たりにするようで興味深い。」

マーミン=シビリャーク『オホーニャの眉』

図書新聞  2015年1月17日
 問い直されるべきプガチョーフの乱を主題に ―ロシアの周辺片田舎の政情をユーモアを交えて

 「ロシア女とキルギスの複数の男との間で生まれた不思議な魅力あふれる娘と、滑稽な振る舞いで終始する、血は繋がっていないがそれ故にか固い父娘愛で結ばれている親子を軸にしたシビリャーク出色の作品」。プガチョーフは一度も登場せず、中篇「死んだも同然……」も「中心になるべき事件や人物は空白である。その空白こそ」長く読み継がれるために「作者が仕組んだ意識的な小説作法だったと思える。」

角伸明『密かな愛の贈り物「初恋」』

日本とユーラシア  2014年9月15日 書評
ツルゲーネフは2つの初恋を書いた 梶山達史(通訳案内士)

 「少年が“大人になる”ための必読書でもあった」ツルゲーネフの『初恋』だが、「その“読み方”は正しかったのか。」「通俗的理解に満足しなかった」著者は長年『初恋』を大学で教えながら「年々発見するものがあった。本書はその集大成である。」「著者の手法は突飛なものではなく、実証的かつ論理的であり、同時に、我々誰もが突き当たる人生論を踏まえたものである」。「小説のディテールを徹底的に読み込み、2つの家族の置かれた状況や個人の性格を再構成して」「論理によってひとつずつ謎を解いていく面白さは『資本論』にも匹敵する。」「本書を読むことによって、読者は本当に“大人になる”。」

ブーニン作品集1『村/スホドール』
エコノミスト 2014年5月20日(日)読書日記

11年ぶりに配本されたブーニン作品集を読む 渡辺京二(評論家)

 ずっと刊行が途絶えていた作品集にもかかわらず、第3回配本の意義を評価。作品はチェーホフの「『谷間』のような救いようのない暗さからすると、『村』はおなじ愚鈍と貧しさを描きつつ、不思議な透明感にあふれている。それは描法の違いから来るもので、ブーニンの目はリアリストのそれというより、見えぬものを見通す透視者のそれなのである。」そして「奇抜な着想で読者を釣ってゆく現代小説に慣れた読者にとって、こういう古典の紹介はどんな意味を持つのだろう」と問いかけ、古典のもつ意味を語っています。

『プロコフィエフ短編集』(サブリナ・エレオノーラ 豊田奈穂子訳)

プラバガイド 2014年8・9月号(松江音楽協会発行)

 公演予定を知らせるパンフレットの最終面に芸術監督の長岡慎氏が書くエッセイ「ぷれこんさあと」の今回の題は「素顔のプロコフィエフ」。『プロコフィエフ短編集』に収められた「日本滞在日記」を紹介している。

オリガ・ホメンコ『ウクライナから愛をこめて』

朝日新聞 2014年4月20日(日)ニュースの本棚

ウクライナ「国民統合」の難しさ

末澤恵美(平成国際大学准教授)

 「ウクライナがロシアほど知られていないのは、この国が世界地図に載るようになって20年余りしか経っていないからであろう」。そのウクライナを知るために写真入りで紹介された3冊の本のうちの1冊。「オリガ・ホメンコ氏の思い出や生活を綴ったエッセーながら、そのひとつひとつのエピソードの奥深さにより、ウクライナを内側から知ることができる。」「この国が背負ってきた歴史がさりげなく語られており、そうした日常こそがウクライナなのだと感じられる。」「現在ウクライナで起きていることを、冷戦後25年間の動きの中だけで理解するのは困難であり、これらの文献を通してウクライナという国を様々な角度から見ることが必要」と結んでいる。

日本とユーラシア 2014年4月15日(日)書評欄

通底する悲しみの背後には…

白井亮(元キエフ国立大学日本語教師)

 「最近の報道で「ウクライナ」という文字が連日メディアに登場するようになるまで、日本人の多くにとって、ウクライナは「ロシアの一部」だったように思う」。「本書はそのウクライナ人の日本語によるエッセイ集」、「歴史や体制の力に翻弄されながらもしなやかに生きる人びとの姿が、温かな視線で描かれ」、「全編に挿入された著者自身のイラストも魅力のひとつだ」。「収められたエッセイの中のある種の「悲しみ」は、ウクライナ人の多くに通底するものではないか…」「それはキエフで過ごした日々に私が、実際に彼らと接する中で感じた「憂い」と同種のものである」。

潮流詩派 2014年4月 書評

キエフの春は

麻生直子

 キエフは「一五〇〇年以上の歴史のある街で五月の初旬には甘くロマンチックなマロニエの花の香りに包まれ、二か月遅れでポプラの綿毛が教会の丸屋根の上の青空に向って飛ぶ」。「かつて私が読んだ本には、ドイツ占領軍が廃墟にしたキエフを戦後間もなく訪れたスタインベックは、将来その美しさを取り戻すだろうと書き、共に訪れたカメラマンのキャパは、崩れた壁の間に見える寺院の円屋根を写した」。チェルノブイリで原発事故が起きた当時中学生だった著者は、事故から25年たって「色々な病気が発生し、精神的にも深く傷つきながら、多くの人は思い出したくないという微妙な感情を持つという。その記憶が福島の原発事故でフラッシュバックし、オリガは福島の人びとの気持ちに寄り添い祈るのだ。〈ウクライナから愛をこめて……〉と。」

北海道新聞 2014年4月6日 本の森

 「少女時代の記憶や大切な人たちとの交流、ともに大きな原発事故を経験した母国と日本へ寄せる思いを、日本語でつづる。」

『プロコフィエフ短編集』(サブリナ・エレオノーラ 豊田奈穂子訳)

クラシックソムリエ検定 シルバークラス対策 公式テキスト 2014年5月1日(ぴあ株式会社刊)

 「第1楽章:謎から読み解く編」の「ロシアの作曲家たちはなぜ亡命したのか?」の項でプロコフィエフを取り上げ、写真入りでこの本を紹介。

オリガ・ホメンコ『ウクライナから愛をこめて』

朝日新聞 2014年3月9日(日)

 「情勢が緊迫するウクライナ。1月に刊行された本書は、当地の人々の直近の体温や暮らしぶりを伝えるエッセーだ。」「チェルノブイリ事故の時、親と離れて学校ごとに避難させられた10代の体験、ソ連崩壊により独立した後は、人々は経済的な問題を解決しなければならないのが実情で事故の話をしたがらないようだと一節には、日本が重なってみえる。」

FMヨコハマ books A to Z

 2014年3月26日(水) 7時52分〜57分

  隔週で火曜から金曜まで、活字好きのアナウンサーの北村浩子さんが本を紹介する番組。今日の一冊は「横浜市南区の出版社、群像社から出ています」。「ハガキに見立てたすてきな表紙が目をひき」、「小さな物語のなかに見え隠れするウクライナがたどってきたきびしい道のりに心がじんとする箇所もたくさんあります」という紹介に続いて、本のなかから数カ所を引用して朗読。チェルノブイリ事故の話も出てきますが、「決して重苦しい一冊ではありません。軽やかで風通しのいい文章で書かれているからこそ伝わってくるものがあるエッセイです。」横浜に移転してきて初めての地元メディアによる紹介。

週刊文春 2014年3月20日号

 文春図書館〈新刊推薦文〉

 「チェルノブイリ原発事故の記憶、時代に翻弄された身近な人々の思い出、キエフの歴史と魅力。ウクライナ人女性が日本語で綴ったエッセイ。」

ヴァムピーロフ『長男・鴨猟』

(宮澤俊一・五月女道子訳)

俳優座劇場通信ひろば 2014.1.7 第128号

 劇場通信(支配人 高木年治)

 昨年11月に上演された「長男」を原作にした菊池准演出の舞台「もし、終電に乗り遅れたら…」は、「観ていただいた方から『世間知らずのすぐに人を信じてしまう父親にあきれ、驚きながらも家族の絆をコミカルで楽しく問いかける心温まる舞台だった。』などの感想をいただきました。そして、多くの方々から再演をしてほしいとの言葉を頂きました。再演できるようにして行きたいと考えています。」

ブロツキイ『私人』(沼野充義訳)

情報管理 2014年4月号(科学技術振興機構 発行)

〈この本おすすめします〉科学×文学

坂下鈴鹿

 おすすめ本の5冊のうちの1冊目。「ノーベル文学賞は娯楽作品や疲れた心に癒しを与えるような作品ではなく、まったく新しい視点や概念、人間の異様さや多様性などを読者に「発見」させ、そのことによって人類をより理想に近づけた作品に対して贈られるのだろう」。ブロツキイは「詩を含む芸術の価値は、すべての人間が他者とは異なることを示すことにより、また、常に同語反復を避けようとすることにより、歴史や過去のために生きる運命から人類を解き放ち、未来を描くことができる点にあると述べている。」

ペレーヴィン『宇宙飛行士オモン・ラー』(尾山慎二訳)

季刊シュシュアリス 2014年5月vol2(KADOKAWA)

乙女座さんがススメるBook List

辻内千鶴(書店員/オリオン書房ノルテ店)

 みんなと同じものを無理していいと思う必要はないというコンセプトで「進め!妄想ガール」と銘打った新雑誌。特集の「私を見つけるワタシの占い」では星座ごとに2〜3人が本を推薦するコラムがあり、「とてもよくできた青春小説」「健気な前向きさで月に向かってひたすら自転車をこぐ姿にキュンとします」と紹介。

ポチョムキン『私(ヤー)』(コックリル浩子訳)

週刊読書人 2014年1月17日

ドストエフスキーの世界を彷佛させつつロシア文学空間の変質を感じる

望月哲男

 「孤児の「わたし」と新人類の「私」との内的対話を基調としたこの物語は、テーマも形式もドストエフスキーの世界を彷佛させる。」「ただしドストエフスキーがあくまでも人間社会という舞台にこだわり」「物語の収束点を用意していたように見えるのに対して、ポチョムキンの世界には一見して人間的な収束点が無い。」「そしておもしろいことに、禁欲的なまでに貫徹される自己完結型の対話こそが、そこに欠落しているモノ、すなわち「物語る」行為に意味を与えるべき他者・愛・共感の必要性を想起させる仕組みになっている。」

ポルドミンスキイ『ロシア絵画の旅』(尾家順子訳)

 2014年春 No.214

なぜ庭なのか

対談 山田茂雄×中山庚一郎

 多くの庭園デザインを手がけてきた著名な造園家と建築家の対話。山田氏が師匠にあたる中島健氏に誘われて見に行った「ロシアのすばらしい風景画家」はシーシキンだった。「シーシキンの絵は、倒木や沢や森が「ただ描かれている」だけなんですが、自然の力強さが伝わってくる絵です。その自然観をなんとか庭で表現したいと思い、ずっと自分自身のテーマにしてきました。」『ロシア絵画の旅』の原書からシーシキンの絵を転載。建築資料研究社が発行する庭づくり・造園デザインの専門季刊誌の存在も、ロシアの画家が日本の造園家に影響を与えていることもはじめて知った。

ウリツカヤ『それぞれの少女時代』(沼野恭子訳)

 『クコツキイの症例』(日下部陽介訳)

ミセス 2014年2月号

ロシアに生きる“それぞれ”の子どもたちへ
 リュドミラ・ウリツカヤ

取材、文・佐藤仁美

 モスクワに住む「ロシアで最も著名な作家の一人」ウリツカヤの自宅兼職場に訪れて「自分とは違う人々を理解することの意味」を聞いたインタビューを軸にをウリツカヤの仕事を紹介した6ページの記事。沼野恭子氏の二つのコラムと群像社の2冊を含め日本で出ているウリツカヤの本をすべて写真入りで紹介。記事タイトルの「“それぞれの”子どもたちへ」には『それぞれの少女時代』が重なる。

ウリツカヤ『クコツキイの症例』(日下部陽介訳)

毎日新聞 2013年10月20日

粛清の時代に浮び上がる産科医たちの肖像

沼野充義

 「いつノーベル賞を受賞してもおかしくない優れた作家」の「力量を発揮した堂々たる長編」。「人間模様の背景には、スターリン時代の粛清と苛酷な戦争があり、歴史の重く壮大なキャンバスに描きだされる登場人物たちは、それぞれが欠陥と不幸を背負っているのだが、不思議とみな魅力的である。」「一見したところ、古典的な構えの長編叙事詩のようにも見えるのだが」「時に古典的なリアリズム小説の約束事を破るような実験的要素」「も盛り込みながら、現代小説の可能性を追求している。いまでも文学にはこういう世界を切り拓くことができる、というのは読者にとっては快い驚きだろう」。

週刊読書人 2013年9月13日

常なるものと無常とを対照的に捉える

中村唯史

 「大枠としては、ソ連の成立前から崩壊後までを描いた歴史小説」だが、「焦点は、状況の中でそれぞれに生きる人々」で、そこで「前景化しているのは、血縁によるのではない家族の形成」、「記憶の病と人間の尊厳」といった主題で「小川洋子『博士の愛した数式』など、現代日本文学にも通底するものだ」。「常なるものと無常とを対照的に捉えた本作は、革命の時代を描いた詩人ボリス・パステルナークの大河小説『ドクトル・ジバゴ』のその後の物語でもある」。

図書新聞 2013年10月12日

登場人物の陰影に富んだ描写が最大の読みどころ

前田和泉

 「クコツキイは英雄でも聖者でもない。医師としてすぐれた技量をもちながら、閉塞的な社会の中で酒浸りになり、家族の崩壊を招いてしまう無力な男だ」。「だが彼は自らの責任から逃げることなく、黙々と職務をこなしていく」。「多様な人々が織りなす物語は、安易な起承転結に集約されることなく、様々に絡み合いながら大河のように流れてゆく。あえて大団円に終わらせない結末は好みの分かれるところだろうが」「時に不協和音を奏でつつ、一つの世代から次の世代へ連綿と続いてゆく」「生の連なりを描いた本作は「混沌とした音ではなくまさに音楽」なのである」。

宮崎朋菜・鈴木玲子・豊田菜穂子著『路上のミュージアム』

図書新聞 2013年9月14日

歴史と文化に彩られたモスクワの魅力と現在の息吹を紹介

新庄孝幸(ノンフィクション・ライター)

 「歴史と文化に彩られた古都モスクワの魅力と、カバーに刷り込まれた地下鉄路線図とが見事に交響して、あまたのガイドブックにはない深みと街の息吹を伝える本に仕上がっている」という全体の評価のあとに本の構成に沿って具体的に内容を紹介。「本書を片手に路上のモニュメントめぐりをしてみたい。想像しただけでも楽しくなるモスクワ再発見、新発見に満ちたガイドブックの出現だ。」

日本とユーラシア 2013年7月15日

新しい街歩きのスタイルを提唱

坂田恒衛(ユーラスツアーズ社長)

 「世界屈指の『銅像大国』」、その「銅像やモニュメントがとりわけ多いモスクワ」と「その郊外まで足を延ばしてそれらを確かめ、一つ一つ丁寧に解説してくれているのがこの本で、おまけに、それらが地下鉄の路線ごとに地図入りで整理され紹介されているので、実際に自分で歩いてみるのにも実に便利なガイドブックでもある」。「とはいえ、紹介されているモニュメントをまわり尽くすには1ヵ月はかかるだろう」。著者の一人がモスクワ在住のピアニストで「彼女が10年間のモスクワ暮らしで得た、いわば、コレクションのようなものだったという言葉もうなづける」。

ラスプーチン『病院にて』(大木昭男訳)

図書新聞 2013年7月6日

ソ連崩壊と体制転換のなかで生きる人びとの姿をえがく

桜井裕三(ジャーナリスト)

 「民主派や改革派が善であり、ソ連擁護派は守旧派で悪であるというレッテル張りが横行した時代」の渦中にあった作家ラスプーチンは「目先の変化に振り回されず、むしろ体制転換の変化に巻き込まれた人間の姿を捉えた。本書はそんな短編集だ」。ここで「浮び上がるのは、特権階級の無責任と変わり身の早さに振り回される人びと」が「幾重にも引き裂かれていく姿」、「歴史的経験が宙に浮き、無意味と化すような社会状況の変化である」。「ソ連崩壊後の現実を文学的に捉えたこの作品に、ロシア文学の不朽の力を見る思いがする」。

ポルドミンスキイ『ロシア絵画の旅』(尾家順子訳)

ロシアNOW 2013年9月17日 話題の本 

中村唯史(山形大学人文学部教授)

 「批評家の小林秀雄が『ロシヤ近代文学は、驚くべき高所まで達したが、絵画界はそういうものではなかった』と述べたのは、半世紀前」で、その後20世紀のロシア絵画の紹介は増えたものの、「小林が念頭に置いていた19世紀ロシア絵画は、今なお広く知られているとは言いがたい」。「各章をトレチャコフ美術館の展示室に見立て」、多くの画家と作品と「それにらにまつわるエピソードを平易に語る本書は、この空白を埋めてくれる」、「入門書として格好の一冊である」。

ブロツキイ『私人』(沼野充義訳)

日本経済新聞 2013年4月16日 1面コラム「春秋」

 亡くなった三國連太郎氏が7年前にブロツキイの本について書いていた文章をとりあげ、<俳優の三国連太郎さんは、氏の受賞講演記録「私人」をいつも手元に置いていると本紙夕刊「こころの玉手箱」に書いていた。思想の押しつけを徹底して嫌い、「私」を貫こうとする意志が痛いほど伝わってくるというこの本を、トイレにも持ち込んだ。中学の軍事教練を嫌悪し、出征して多くの仲間を失った三国さんは、復員してからも周りの空気に流されることをよしとしなかった。その気骨が役者としての独特の存在感を生んでいたのだろう>と、<異端の俳優>の死を悼んでいる。

 

チェーホフ『さくらんぼ畑』堀江新二、二一ナ・アナーリナ訳

朝日新聞 2013年4月16日

桜の園じゃなくてさくらんぼ畑

チェーホフの原題の訳、考え直してみたら

塩倉裕(文化部)

チェーホフの『桜の園』を群像社版では『さくらんぼ畑』とした理由を訳者の堀江氏の言葉で紹介し、作品の一部を引用。当初は「桜の園」を踏襲する予定だった出版社が改題に踏み切る「転機は3.11だった。」「震災後の言葉は震災以前と同じではありえないはずだ、同じ言葉を使うことは以前と同じことを続けることになる、と強く思いました」などと語る群像社・島田進矢の言葉を紹介。来年「さくらんぼ畑」で演劇公演するという演出家の奥村拓氏、題は踏襲したものの「サクランボの花が咲きほこっている」となっている浦雅春訳(光文社)をあげ――「美しいその邦題とともに愛され、1世紀になる名作をめぐる問いかけが今、小さな波紋を呼んでいる」と。

 

ポゴレーリスキイ『分身』(栗原成郎訳)

ミステリマガジン 20135月号BOOKREVIEW

風間賢二

「プーシキンやゴーゴリ以前の怪奇小説マニアには幻の書」で、その作者は「ドイツ・ロマン派に心酔し、ロシアにおける最初期のホフマン主義者だったことでも知られている」。「本書の読みどころは主人公(作者自身)とその〈分身〉が交互に自作の物語を朗読し、その後の対話におけるメタ批評の面白さにある。亡霊や占いや妖術などに関する二人の博物学的考察がまたひとつの物語となっていて楽しめる。」

 

ナンクロメイト20135月号オモシロ本の世界

牧眞司

小説は19世紀末から現代にかけて発展したわけだが「それ以前の小説がかならずしも古びたわけではない。むしろ技巧に堕さない活力や熱のある想像力で、読者を魅了する小説がある。」「本書もそんな貴重な一冊だ。」「哲学性を含みながら、太い筆で描いたようなイメージが鮮烈だ。」

ロシアNOW 2013年4月11日 話題の本

中村唯史

「名著『吸血鬼伝説』、『ロシア異界幻想』等の著者による正確で美しい日本語訳を通して、私たちは“小説”が確立する以前の、みずみずしく自由な散文の可能性に触れることができる。」

 

ポルドミンスキイ『ロシア絵画の旅』尾家順子訳)

日本とユーラシア 2013年1月15日 書評

上野理恵

「本書の魅力はたんなる様式の変遷史ではないところにある。それぞれの時代を代表する作品が、画家の生涯や作品にまつわるエピソードを交えながら紹介されているので、一般読者にも読みやすく、作品の魅力がダイレクトに伝わってくる。」

「著者はひとつひとつの作品にきちんと対時し、ディテールを丁寧に読み解き、物語を展開していく。そして読者をその物語に引き込んでいくのである。」

BRUTUS 2012年12月15日号(マガジンハウス)

特集:文芸ブルータス

堀江敏幸(作家・翻訳家)×都甲幸治(翻訳家・米文学研究)

「一度限りの文芸誌創刊」とうたった特集で、日本を代表する文芸8誌から提供されたll篇の小説、5本の文芸対談と文芸ガイドが載る。その対談のひとつ「文芸で越境する」のなかにこんな発言が…

都甲幸治「日本語で書かれた優れた文学だけを読むと決めちゃったらもったいないと思います。面白いことをやっている人が、歴史を通して、世界中にこんなにいるのに。」

堀江敏幸「そう。例えば群像社のロシア文学の翻訳は本当は全部買わなきゃいけない(笑)。一部の達人にしか読めないものを、僕ら素人に教えてくれているんですからね。忙しくて、いつ読めるかわからなくても、とりあえず出会いのチャンスは残しておく。」

 

 

イリヤ・トルストイ『父トルストイの思い出』(青木明子訳)

日本とユーラシア 2012年9月15日 

書評 太田正一(詩人・ロシア文学者) 

「文豪であり大思想家であり〈世界の人〉だった父の子ども」であるイリヤは「すべてを理解することはすべてを許すこと」という父から教わった言葉を忘れなかった。だからこそ、息子は「これほど深い思いを込めて書いたし、読み終わったこちらもそこにイリヤの人間性を見て深く感動」する。「ヤースナヤ・ポリャーナの土の匂い、草いきれ、見上げるような松や白樺は、大雪は、今では〈これぞロシア〉という懐かしさで自分を襲ってくる。」もちろん、「人生最後の家出、母の懊悩」などの偉大な作家の気になる「心の闇」はあるが、「世間がなんと言おうと、息子の『母を理解し父を理解することは許すこと』は、きっと読む人の胸を打つだろう」。「訳は簡にして明、リズムも良く、イリヤその人が日本語で書いたら、たぶんこんなかもと思わせる出来である。」

 

中沢敦夫『ロシア古文鑑賞ハンドブック』

ユーラシア研究 46号 2012年5月

図書紹介 小林潔(ロシア語) 

「ロシア語の語感を持たないノンネイティヴがロシア語作品を読むためには、文法、文体の知識を習得し、講読によってコツを掴むしかないが、それには然るべき手引きが必要である。特に、文法も読解の勘所も現代語とは異なる古文(中世ロシア語など)は独学し難い分野で、これまでは学習意欲があってもきちんと学ぶチャンスは少なかった。」「こうした意味で本書は待望の書なのである。」同じ著者による『ロシア詩鑑賞ハンドブック』『ロシア文学鑑賞ハンドブック』と「合わせて、然るべき努力を払えば、ロシア文学の詩歌・散文・古文に関し、怪しげな『センス』に頼らない正確な味読が可能となった。」「ロシア語史に関する和書の数は多くないが、いわば『玉玉混淆』という状態で、優れた教科書ばかりである。充実した学習が可能な時代となった。」

 

 

『俺の職歴 ゾーシチェンコ作品集』(クーチカ訳)

図書新聞 2012年8月18日

ソ連社会の喜劇的寓話が現代によみがえる

室生孝徳(ロシア思想) 

日本で初めて本格的に紹介されるゾーシチェンコ。「美しい小ぶりの造本を手に、翻訳困難といわれた寓話世界を味わえる喜びをかみしめている。」作品の背景は1920年代から30年代のソ連社会。「人生の寓話などというと重苦しいが、飄逸でほろ苦く、ちょっぴり哀愁漂うかと思えば、くすっと笑えもする。そんなソ連人のミクロコスモス、市井の人生喜劇なのだ。」絶大な人気を得たゾーシチェンコは、戦後「反社会的」と批判され文学界でほぼ抹殺された。本書に収められたコヴェンチュークの「ゾーシチェンコを偲ぶ会」は、「ゾーシチェンコと遺族が抱え込んだ重圧や重荷の厳しさを伝えつつも、雰囲気の異なる前段の作品集と併せ読むと、まるでゾーシチェンコ本人が書いた一篇のように思えるから不思議である。」「フィクションとノンフィクションのあわいを越えるペーソスの効いた喜劇性が、本書の全編を貫いている。」「ゾーシチェンコの人生は、ソ連時代の多くの作家がそうだったように悲劇的だったが、遺された作品は言い知れぬ幸せを運ぶ。21世紀の読者をがっかりさせない、私たちの日常に通じる箴言に満ちた作品集だ。」

 

日本とユーラシア 2012年7月15日

書評 川手啓史(書店員) 

「旧ソ連時代は発禁だったといういわくつきの1冊。どんなに危険な思想が語られているのかと期待して読みましたが、どこも危険ではありませんでした。」前半の短編集では「普通の人々の冴えない日常と、極めて小市民的なリアリズムに満ちた思考がつづられているのですよ。英雄とか、努力とか、労働とか一切なし。」労働英雄がもてはやされ、芸術にもイデオロギーや教育的なものが求められたのでしょうが、ゾーシチェンコの作品には「むしろそういうものからいかに逃れようかと知恵を絞るような人々の姿がいくつも描かれています。このどうしようもなさは、ちょっと寅さんに似ているかもしれない。」「今となっては面白いばかりですが、こういうことが禁じられていた、というのも当時を知る貴重な事実といえるでしょう。」

 

 

ナイマン『アフマートヴァの想い出』(木下晴世訳)

みすず 2012年1/2月号 読書アンケート特集

長田 弘 

2011年中に読んだ書物のうち5点以内というアンケートに、この1冊だけをあげて、「一冊の魅惑的な本は魅惑的な街に似て、そのなかに思いもかけぬ露地を秘めています」。この本は「まさにそのような思いもかけぬ露地に誘われる本で、なかでも知らぬうちに入り込んで、立ちどまらされて、目を見はらされたのは、十七世紀の朝鮮へつづく細い小さな露地でした」。それはアフマートヴァが訳した「朝鮮の妓生の詩」のことで、それはおそらく「時調(シジョ)とよばれるうた。風景をうたうことで風景の内部を抉りくる時調」だろうという長田氏は、「訳すことは絶望的に難しいとされる」このうたの「風景の内部の声を」アフマートヴァがどう訳したのかと思いをはせる。「ことばを訳すのではなく、声を映すのが詩の翻訳」。この本に「引かれている十七世紀朝鮮の妓生の詩の声が、ずっと耳にのこっています」と締めくくっている。

 

山田 稔 

5冊目として「待ちかねていた本がやっと出た。」「チェーホフは詩と相容れません(…)私はチェーホフも詩も好きだと言う人は信じません」という文句を「『チェーホフ好き』の私はうーんと言いながら読む」と。

 

人環フォーラム 2012年3月第30号

(京都大学大学院人間・環境学研究科 発行)

書評 酒井英子(ロシア詩研究者) 

「アフマートヴァの独特の詩的声調――物事の核心を、真正面から簡潔かつ厳かに指向する声調――を裏づける貴重な生々しい記録であり、彼女のカリスマ性、詩的天才、忍耐強さ、仲間や周囲の人々にたいする優しさと情の深さ、そして茶目っ気あふれる側面を鮮明に感じさせる。」「アフマートヴァ自身の思い出話から、人々との交流、作品に関わる出来事、さまざまな国と時代の作家の作品、そして日常の何気ない会話まで、多岐にわたってアフマートヴァについての話を繰り広げつつ、その人としての魅力と詩人としての偉大さを伝え、著者ナイマンの敬愛を随所に感じさせる。」「訳者はナイマンの語りの雰囲気そのままに、この本を日本語の世界にもたらされた。その労に感服するばかりである。」

 

アファナーシエフ『ロシアの民話』(金本源之助訳)

図書新聞 2012年3月10日

ロシア民衆の想像力の独特な強靭さ―全4巻完結によせて

野中 涼(フォークロア研究者)

これまでいくつかの翻訳が出版されてきたアファナーシエフの『ロシアの民話集』だが、これは「代表的な話と思われているものに、まだ紹介されなかった話を加え、さらにヴァリアントも数多く含め」、「です調、でした調の、話し言葉の文体を駆使した訳文が、口承説話独特のなつかしい雰囲気を強め、ロシアの民話の世界を一層親しみ深いものにしてみせた」。「ロシアの民話は、豊饒多彩なイメージと巧緻に凝った物語構成の点で、たしかにすぐれた口承文芸の傑作だと言えるだろう。庶民の荒削りで鋭い現実認識には、深く堅実な人間観と人生観がこめられている。」

 

 

アルセーニエフ『デルス・ウザラー』(パヴリーシン絵、岡田和也訳)

ソトコト 2012年2月号 <手づくり大特集> あたらしい自給自足

<自給自足ブックガイド>

「ロハスピープルのための快適生活マガジン」と銘打った雑誌で、特集のなかのブックガイドで、「先人に学ぶ」本の「歴史編」の一冊として取り上げられた。「人間は特別な存在ではない」という見出しで、「美しい絵を見ていると自分までも大自然の中にいるような気分になり、動植物やそこで起こる現象に畏敬の念を抱いてしまう」と。

 

ナイマン『アフマートヴァの想い出』(木下晴世訳)

新 潮 2012年1月号

黒川創 チェーホフの学校

小説というべきか、いくつもの引用からなる文章の中で、「チェーホフは詩と相容れません」ではじまる「チェーホフ嫌い」の章のアフマートヴァの言葉をいくつも引いて、「最晩年の彼女の文学上の秘書役といういうべき役回りをつとめた人物」ナイマンの言葉によって、アフマートヴァとチェーホフの対比を約1ページにわたって描く。出典が明示されていないのが残念。また、岩波文庫にはいった『ニコライの日記』(中村健之助訳)下巻の訳注でも、訳者と同様の「チェーホフ理解を持つ人がいることを知った」としてアフマートヴァの「チェーホフ嫌い」の章が引用された。こちらは出典明示。

 

チェーホフ『さくらんぼ畑』(堀江新二、ニーナ・アナーリナ共訳)

日本とユーラシア 10月15日 <書評>

舞台で声に出して理解される訳文

タイトル変更で作品の中心軸が明確

渡辺知明(コトバ表現研究所主宰)

「文学作品を声で表現するという実践的な研究をしている」という書評者は、「不自然な翻訳口調がつきまとう」翻訳文学を取り上げることは少なかったが、「10年ほど前、堀江氏の訳した『かもめ』に出会って」「翻訳とは思えない日本語」に感動したという。そして「今回の作品は前にも増してすばらしい。じつに読みやすい。すらすら読めるのは文章が的確だからだ」。そしてタイトルの変更によって「さくらんぼの果樹園が別荘地へと転換するという物語の中心軸が明確になった。」「この新訳には、これまで私たちが読んできた『桜の園』の世界についてもう一度、根本から考えさせる力がある」と結んでいる。

 

ナイマン『アフマートヴァの想い出』(木下晴世訳)

ユーラシア研究 No.45(11月25日発行) 図書紹介

中平耀

「これほど同時代人に愛惜され、折に触れて詩人の言葉が身近にいたひとりの若い詩人によってこれほど克明に再現されたのだという驚き。このような詩人がかつてロシア詩の歴史の中にいただろうか。」「私にはアフマートヴァの生きた時代がすでに前世紀になっているという実感がどうしても湧かない。私の中ではアフマートヴァは今も今世紀の詩人でありつづけている。」書評者は、記憶についてのアフマートヴァの考えを読んだとき、「すぐにマンデリシュタームを思った。」「過去に参入しようとする」のではなく「現在を過去の〈反復〉として〈想い出す〉」マンデリシュターム。「まさにアフマートヴァが言うところの〈記憶〉と同じことではないか」。『マンデリシュターム読本』(群像社)の著者でもある評者ならではのコメント。